初めて山荘を訪れた方たちのお言葉、第一声が「いや~、大変な所ですね」。やがて、レストラン棟に入り、そしてベランダに出て前方の山並を見ると「いや~、すごい所ですね」。言葉のニュアンスが少し変化してくる。部屋へと案内するころはやたら山とりごちが多くなる。「空気がおいしい…鳥の声がいいね…のどかだねぇ…」。夕食までの時間を部屋の中ですごしたお客様は、気分がすっかり山の自然と一対になっている。 夕日が沈む頃に見せる山並の黒いシルエットが見えなくなる頃、レストランの中でフランス料理のディナーが始まる。ゆったりとした食事の時間を楽しんだ後、レストランから一歩戸外にでると、木々の中で冷やされた空気がワインでほてった「ほほ」をなぜていく。 夜の「山荘」は日によって大きく変化する。無数にきらめく星の夜空は、両手ですくえるほど近くに見える。木々の間から見え隠れする月には、いろいろな形がある。雨の日に霧でかすんで見える宿泊棟は幻想的だ。 ネオンきらめく夜の街からわずか一時間ほど山の中に入ってくると、そこには都会にはない「なにかがある」。自然だから何もない。何もないから、本当の自分に戻れるのである。そんな「山荘」でありたいと願いつつ、自然を愛するあなたを待っている。 朝から降り続いた雨は、午後にはやんだが、「桐」の花がすっかり落ちて坂道に花のじゅうたんをつくった。調理場からはパンを焼いている香りがする。
〈お客様のお声〉
ディナーのあとで。 「今日は娘達に連れられて来ました。フランス料理は初めて食べましたが、さっぱいりしていて食べられるもんですね。今夜は完食です。」そばから娘さんが「母は普段はあまり食べないんですよ。よかった連れてきて。」 娘さん3人に囲まれ手をつないでお部屋に戻っていく。それを見送る今夜の月は満月に近い。翌朝、朝食がすみ、「ゆっくりさせていただきました。おいしいお食事と思い出を頂きました。ありがとうございました。」とご丁寧なあいさつを頂く。そしてそっと手渡された一枚の紙にお気持ちが書かれてあった。
「天までと 届くかと思ふ み倉野に 子らと一夜の宿り清しも 久美」