そのとき、とつぜんに2羽のカラスがけたたましい泣き声をあげて「トンビ」らしき茶色の鳥を追ってとんできた。体当たりするバシッという音も聞こえる。逃げている「トンビ」には、余裕があって、わざとゆっくりと飛んでいる。どちらが「ケンカ」をしかけたのかは分からないが、広い上空で空中戦をやっている。その勝者は分からないまま木々の中にとけて消えた。
このベランダを通る風は、実にさわやかで気持ちが良い。ご来荘のお客様にまずお座りいただき、お茶をお出しする。「別 世界ですね」…「のどかだ」…のお言葉をいただきながら「明日の朝食はこのベランダでいかがですか」と、おすすめをする。
リピーターの方は、ここからながめる夕日の美しさを知っていて、ディナーの前に山並をみながらアペリティフを飲まれる方も増えている。冷えたキールやラムや炭酸水で割ったカンパリ酒、森町特産の「柿ワイン」やメロンワインの甘口を飲んで胃袋に「シゲキ」と食事への誘いの儀式を行うと、もうこのひとときは至福を感じていただけるものと確信する。
ベランダの下の雑草の中に1本だけ残って咲いていた野生の「さつき」の花が、ついに落ちてうすいみどりの葉が残って風にゆれている。つゆの季節が近付いているのを、山全体は感じ、その準備に入っているのである。